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    黄泉戸喫(よもつへぐい)とは?この言葉はある伝説から生まれた!

    「古事記」に出てくる黄泉戸喫(よもつへぐい)とはどういう意味なのでしょうか。ジブリ映画「千と千尋の神隠し」にも登場人物がよもつへぐいを行っているシーンがあります。今回は、よもつへぐいの言葉の意味と使い方、よもつへぐいを行っている作品をご紹介します。

    黄泉戸喫(よもつへぐい)とは?

    黄泉戸喫(よもつへぐい)とは、例えばオカルトが好きな人や古事記、日本の神様などが好きな人にとっては、聞いたことがある言葉でしょう。しかし、それらを好きという人の中には、黄泉戸喫(よもつへぐい)は聞いたことはあるものの、意味を知らないという人もいるはずです。

    黄泉戸喫(よもつへぐい)とは【黄泉の国の食べ物を食べる行為】のことを意味しています。

    黄泉の国で食事をする、というのは特別な意味があるとされており、古事記でも触れられています。また、黄泉の国での食事を題材にした作品なども多くあります。

    黄泉戸喫(よもつへぐい)の由来

    黄泉戸喫(よもつへぐい)は古事記に出てくる言葉です。古事記には【黄泉の国へ】という項目があり、そこにはイザナミとイザナギについて記述されています。

    黄泉戸喫(よもつへぐい)の由来というのは、その文字を見てわかるとおり、黄泉が関係しています。黄泉というのはあの世、死者の国を表すというのは、おそらくほとんどの人はわかっているでしょう。

    古事記【黄泉の国へ】では、そんな死者の国へ神であるイザナギが訪れた時の話になっています。

    黄泉戸喫(よもつへぐい)の背景

    なぜ黄泉戸喫(よもつへぐい)という、【黄泉の国の食べ物を食べる行為】という言葉がそもそも出来たのでしょうか。それは、古代の人たちが行っていた埋葬方法が関係していると考えられています。

    大昔、人が死ぬと埋葬時には土に埋めていました。その時には、遺体と共に食べ物を一緒に埋めていたとされています。これは埋めた遺体が一緒に埋めた食べ物を食べるということを表していたそうです。

    死者が一緒に埋めた食べ物を食べることにより、その死者は二度と蘇らないと考えられていました。蘇らないということは安らかに眠り続けられるということです。それを信じて行っていた習慣から、黄泉戸喫(よもつへぐい)が生まれたと言われています。

    黄泉戸喫(よもつへぐい)を行ったらどうなる?

    黄泉戸喫(よもつへぐい)【黄泉の国の食べ物を食べる行為】を行ったらどうなってしまうのか、気になる人もいるでしょう。

    古代の習慣、黄泉戸喫(よもつへぐい)の背景を見てみると、死者と一緒に埋めた食べ物を死者が食べることにより、安らかに眠り続けられる…つまり蘇らないようにしていたことだというのがわかるでしょう。

    つまり、黄泉戸喫(よもつへぐい)を行うと【現世には戻れない】と考えられていたのです。

    黄泉戸喫(よもつへぐい)の伝説

    ここで再び古事記について触れていきましょう。古事記【黄泉の国へ】では、神イザナギが黄泉の国へ訪れるという話を冒頭で紹介をしました。その背景には、妻イザナミの死が関係していたのです。

    妻イザナミは火の神カグツチの出産時、大火傷を負ってしまいます。これにより、イザナミはその命を落とすこととなり、黄泉の国へと送られてしまうことになりました。しかし、夫イナナギはイザナミのことが忘れられず、黄泉の国へと自ら足を運ぶことを決心するのです。

    迎えに行きイザナミと再会するものの、イザナミは現世へ帰れないと話します。イザナミは黄泉戸喫(よもつへぐい)を行った、黄泉の国のものを食べて黄泉の国の一員となってしまったから、帰ることが出来ないとイザナギに告げるのです。

    黄泉戸喫(よもつへぐい)を行ったら帰れなくなる?

    黄泉戸喫(よもつへぐい)を行ったら現世に戻れない、それを聞いたイザナギですが簡単には諦めきれず、イザナミ自身も現世へ帰りたいという気持ちが強いため、黄泉の国の者たちと交渉をしてくるから、絶対に部屋を覗かないでほしいと伝えて、会話をしている部屋へと入っていきます。

    しかし、気になるイザナギは部屋を覗いてしまいます。そこには腐り果て、ウジ虫が湧いているイザナミの姿がありました。イザナギは咄嗟に逃げ出し、イザナミはそれを追いかけますが、結局イザナミが現世に戻ることはなかったようです。

    どんなに死者が現世に戻りたいと望んでも、黄泉戸喫(よもつへぐい)をした時点で現世に戻ることは不可能になってしまうのです。イザナミが黄泉の国へと交渉しにいったように、もしかしたら協力者がいることにより現世に戻れる可能性はあるかもしれませんが、基本的には厳しいと考えられています。

    黄泉戸喫(よもつへぐい)を行っている作品がある!

    黄泉戸喫(よもつへぐい)は、様々な作品でも設定として加えられているものでもあります。誰もが知っているジブリの名作【千と千尋の神隠し】にも黄泉戸喫(よもつへぐい)と思わせる描写があったということに、すでに気づいている人もいるでしょう。

    また、【仮面ライダー鎧武】やホラーゲーム【SIREN】でも、黄泉戸喫(よもつへぐい)のような設定が加えられています。黄泉戸喫(よもつへぐい)については詳しく知らなかったという人も、こういった作品に触れてみると、黄泉戸喫(よもつへぐい)をより理解出来るようになるでしょう。

    他にも黄泉戸喫(よもつへぐい)のような設定を入れた作品はありますが、今回はそんな3つの作品にまつわる黄泉戸喫(よもつへぐい)について見ていきましょう。

    「千と千尋の神隠し」

    千と千尋の神隠しは千尋と両親が異世界に足を踏み入れることで始まる話です。冒頭では、美味しそうな屋台の香りに誘われて、両親は屋台の食べ物をどんどん食べていくのに対し、千尋はそれを拒み、口にすることはありませんでした。

    結果的に、屋台のものを勝手に食べた両親は豚に姿を変えられてしまいます。千尋は食べていなかったため人間の姿のままでいられましたが、姿が消えそうになります。それはその世界のものを食べていない=住人ではないから、姿が消滅しそうになるという理由が関係していました。

    少年ハクの助けにより、豚にならないという言葉を信じて、その世界の食べ物の1つを口にすることで消失は免れました。これも黄泉戸喫(よもつへぐい)と同じようなものであり、その世界のものを口にすると世界の一員になるのがわかります。また、元の世界に戻るのも一筋縄ではいかないことが描かれています。

    「仮面ライダー鎧武」

    仮面ライダー鎧武では、やや黄泉戸喫(よもつへぐい)を感じさせる設定が織り込まれています。主人公たちは変身をする際、この世とは違う黄泉の国に存在している果物を使い、その姿を仮面ライダーへと変身させます。

    実はこの果物ですが、これを現世の者が口にしてしまえば、異形のものへと姿を変えてしまうという設定があります。これは、古事記で目にしたイザナギが逃げるほどに驚いた、イザナミが腐敗してウジ虫が集っていた姿を思い出させるものになります。

    仮面ライダー鎧武では、そんな【黄泉の国を食べたことによる代償】が触れられていました。また、仮面ライダーが敵対する相手には【ヨモツヘグリアームズ】という存在がいたのも、黄泉戸喫(よもつへぐい)や黄泉の国を連想させるものとなっています。

    PS2のゲーム「SIREN」

    史上最恐のホラーゲームとして知られるSIRENは、とある村を舞台にした作品です。村に様々な興味を持った者たちが訪れていくものの、サイレンが鳴り響いた途端、村人たちは狂気にまみれて襲いかかってくるようになり、村は真っ赤な水で囲まれ、逃げることが出来ない状態になります。

    このゲームではさらに奥深いストーリーや設定がたくさんありますが、エンディングはいくつか残されており、その1つには【赤い水を飲むと元の世界に戻れない】というものがあり、赤い水を飲まなかったものは現世に戻れるというエンディングがあります。

    SIRENのこの世界は黄泉の国のような扱いになっていて、その世界のものを本来現世に生きる人間だったものが口にしてしまえば例外なくその国の住人になり、生還を果たせなくなってしまうのです。これも、黄泉戸喫(よもつへぐい)と非常に似たストーリーになっています。

    黄泉戸喫(よもつへぐい)を治す食べ物がある?

    黄泉戸喫(よもつへぐい)をしてしまえば現世に戻れなくなる、それは神イザナミが出来なかったのを見ると決定事項のように思えてしまうものです。しかし、黄泉戸喫(よもつへぐい)を連想させる作品の中、今回紹介した【千と千尋の神隠し】では、苦労の末現世への生還を果たしています。

    そのため、もしかしたら黄泉戸喫(よもつへぐい)をしたとしても、現世に戻れるような方法があるのではないか?と気になる人もいるでしょう。

    その方法、さらには【現世においても現世の食べ物を食べなければ姿が消失してしまうのではないか】という話についても触れていきます。

    基本的に黄泉戸喫(よもつへぐい)は治せない

    まず、黄泉の国へと行った際に黄泉戸喫(よもつへぐい)を行ってしまったら…やはり現世に戻る方法というものはないと考えられています。古事記に登場する神イザナミですらも、それを叶えることは不可能でした。

    黄泉の国の者へと相談をしにいっていましたが、その姿を目撃したイザナギが見たのは、変わり果てたイザナミの姿であり、黄泉の国の住人として認められてしまった以上、その姿は現世の者とは違う異形の者になってしまっている可能性が十分に高いと言えます。

    そのため、黄泉の国の者になってしまえば、現在わかっていることだと現世に戻ることは出来ないと言えます。イザナミは交渉途中に本当の姿を見られてしまったため、イザナギに逃げられ帰還出来ませんでしたし、どのような方法で帰ろうとしたかは誰にもわからないのです。

    黄泉戸喫(よもつへぐい)を治すに誰かの力が必要

    実は現世にいながらも黄泉戸喫(よもつへぐい)に陥ってしまう現象を考える人もいます。これは現世の食べ物を口にしなければ現世との繋がりが薄くなる=命を落とす=黄泉の国の住人になってしまうというものです。千と千尋の神隠しでも、その世界のものを口にしないことで千尋は消失の危機に陥っていました。

    現世では基本的に誰もが食事をしますが、心身が一定以上疲弊してしまう、衰えてしまうことにより、食事をする気力はなくなります。やがてそのままの状態が強くなれば、肉体は見えたとしても、魂や霊体は現世から消えてしまいそうになります。まるでそれは黄泉戸喫(よもつへぐい)のようだと考えられます。

    現世においての黄泉戸喫(よもつへぐい)を治すためには、誰かが自分に対して現世のものを無理やりにでも与えてくれないと黄泉との繋がりが濃くなってしまいます。そういった意味では、現世の黄泉戸喫(よもつへぐい)は協力者がいれば生還出来ると考えられます。

    ギリシャ神話でも黄泉戸喫(よもつへぐい)が行われている?

    黄泉戸喫(よもつへぐい)は古事記に登場するものであるため、日本特有の考え方のように思えてしまうものです。しかし、実はギリシャ神話にも黄泉戸喫(よもつへぐい)が行われているような描写があるってご存知ですか?

    ギリシャ神話に登場する女神ペルセポネは、大神ゼウスと豊穣の神デメテルの娘であり、花を咲かせる女神であると知られています。また、春の神として呼ばれることもある女神です。

    そんなペルセポネの神話【ペルセポネの冥界下り】は、まさしく黄泉戸喫(よもつへぐい)を思わせるようなものとなっているのです。

    「ペルセポネの冥界下り」

    女神ペルセポネは母デメテルと暮らしていましたが、冥界の神ハデスがペルセポネに恋をしたのをきっかけに、ハデスはペルセポネを冥界へと連れ去ってしまいます。無理やり婚姻を結ばされたのを知ったデメテルは、夫でもあるゼウスに掛け合いますが、ゼウスは正式な婚姻であると言って耳を貸しません。

    突如娘を失ったデメテルと花を咲かせる女神ペルセポネを失った大地は荒れ果ててしまい、デメテルは冥界に伝令神であるヘルメスを送りだし、ペルセポネを還すように掛け合います。しかし、ペルセポネは何者かにそそのかされ、冥界にあったザクロを12粒のうち4粒食べてしまったのです。

    冥界のものを口にした時点で冥界の者であるというのは掟でしたが、女神ヘスティアは12粒中4粒ならば、1年のうち3割は冥界で暮らす必要があると告げ、ペルセポネは1年のうち大半は地上で暮らし、3分の1は冥界で暮らすようになりました。

    「古事記」との共通点

    古事記との共通点を見てみると、やはり【冥界のものを食べたらそこに住むべきである】という掟があるということでしょう。日本では黄泉=あの世であり、ギリシャ神話でいうあの世とは冥界を指しています。

    ペルセポネは無理やり冥界に連れ去られた存在でしたが、冥界のザクロを食べたことで冥界に住むことを強制されてしまうところでした。イザナミとはケースは違うものの、食べたことでその世界に留まらなくてはいけなくなる…というのは古事記に非常に似ています。

    ただし、古事記と違うのはペルセポネは現世に還れたということです。また、ペルセポネは後にハデスの一途な思いに心打たれ、ハデスを愛しています。つまりペルセポネは、現世は愛する母と過ごせ、冥界では愛するハデスと過ごせている…愛する者と引き裂かれた日本の神とは決定的に異なるところだと言えます。

    異世界での食事には気をつけよう

    黄泉戸喫(よもつへぐい)はのような掟は、日本の古事記だけでなく、ギリシャ神話にも登場していることから、死者の国で食べ物を食べるという行為は重大なことであるというのがよくわかります。

    日本の都市伝説の中には、気づいたら異世界のような場所に行っていたというものがありますが、その中には「その世界のものを口にすれば元には戻れなくなる」と言われているものも少なくありません。

    もし、自分がまだ生きていて、その中でいつも過ごす世界とは違った世界に訪れてしまったら…現世に戻るためにも食事という行為には細心の注意を払ったほうが良いと言えるでしょう。

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