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2023/12/28
大今里
「エリザべート」「ダンス・オブ・ヴァンパイア」「モーツァルト」など、世界中で絶大な人気を誇るウィーンミュージカル。日本でも、宝塚歌劇団、東宝ミュージカルにより日本版が上演されています。
2012年にはウィーン版キャストのマテ・カマラスが、日本で「エリザベート」に登場する黄泉の帝王・トートを演じたことをきっかけに、本場ウィーンの俳優たちに対する日本のファンの関心が高まるようになりました。
さて、そんなウィーンミュージカル俳優の中でも、今回皆さんにご紹介するのは、甘いマスクと歌声、そして圧倒的な存在感で舞台に君臨し、絶大な人気を誇る俳優。
Mark Seibert (マーク・セイバート)です。
「エリザベート」 トート役
その姿はまさに帝王。
2011年のミュージカル エリザベート ドイツツアーにて、黄泉の帝王こと死神トート役としては初めて舞台に降り立った彼を見て、そう思った観客も多かったのではないでしょうか。
189cmの長身に涼やかな目元。長い手足から生み出される所作は、優美であり、かつ威厳を感じさせます。
そんな、いまやウィーンミュージカルにとって必要不可欠な存在であるマークについて、彼の経歴を共に追ってみましょう。
オフで見せるチャーミングな笑顔もまた、人気の一つ。
多くの人気俳優・アーティストは、一直線に芸能界を目指して、おのおの音楽学校や演劇学校で学んだ経歴を持っていることがほとんどです。
しかし、マークはその点が他の俳優たちとは一線を画しています。俳優としてのキャリアをスタートさせるまでにやや遠回りをしているのです。
ドイツ、フランクフルトに生まれ。少年時代に熱中したのは、習い事として始めたダンス。
はじめ、マークは大学に進学して経営学を学び始めます。しかし、どうしても夢を諦めきれなかった彼は、途中で大学を辞め、演劇やダンスといった舞台芸術の基礎を学ぶために、ウィーン国立音楽大学へと編入することを決めました。
中断することになった経営学の勉強ですが、のちにマークは、数年間の通信教育を経て、しっかりと学を修めています。
何事も中途半端のまま放っておきはしない、彼のストイックな性格がよく表れていますね。
「ウィキッド」にてフィエロ役(画像右)
その後、また別のウィーン市内にある私立の芸術大学、ニューヨークのリーストラスバーグ演劇学校(※現在のリーストラスバーグ演劇・映画専門学校)にて学ぶ傍ら、ミュージカルを中心に数多くの舞台を踏むことになります。
早くから優秀な俳優としてその頭角を現し、主要な役を射止めるようになったマークですが、とりわけ注目を集めることとなったのは、ドイツ版「ウィキッド」の初演(2007~2008)キャストの一人として、フィエロ役を演じてからです。物語序盤は、楽天的でいかにもな王子様として、しかし後半にいくにつれて、主人公の魔女を想い、人間として成長をしていく難しい役どころを、見事に演じ切りました。
こうしてマークは、着実に、しかし恐るべきスピードで、その人気を高めてくこととなります。
そんな彼がとうとう主演俳優へと上り詰めることとなったのが、実在したオーストリア皇后、エリザベートの生涯を描いたウィーン発祥のミュージカル、そう、「エリザベート」でのトート役です。トートとは、ドイツ語で「死」という意味。その名の通り、黄泉の帝王、死神であるこのキャラクターは史実にはもちろん登場しませんが、エリザベートと並んでの主役であり、人気の高い役です。
架空の、しかも人ではなく死を象徴する存在でありながら、一人の女性に狂おしいほどの愛情を抱く難役ですが、マークは、彼がそれまでに培ってきた俳優としての経験と、生来のスター性を遺憾なく発揮し、これこそが自分の当たり役なのだと、ミュージカル界に示して見せました。
マーク演じるトートは人気が非常に高く、2014年、2015年にも再びこの役を演じています。
この役を皮切りに、マーク・セイバートは、ミュージカル界、とくに、ウィーンミュージカル界での人気俳優としての立場を確固たるものとしました。
もう一つ、マークの当たり役と言えば、「ダンス・オブ・ヴァンパイア」でのクロロック伯爵。彼の演じる伯爵は、長身に加え、甘い歌声、そして「エリザベート」で培った人ならざる者の持つ威圧感が、絶大な人気を誇っており、今現在(2017/12/10)も、ウィーンのライムント劇場でその姿を拝むことが出来ます。
クロロック伯爵は、ヴァンパイアたちの謂わば王。心身ともに餓えに渇くヴァンパイアを率い、宿屋の娘で若く美しいサラを誘惑します。
このミュージカルで最も有名で、かつ人気が高いのが、まさしく、サラが抗いがたい誘惑に惹かれて伯爵の元を訪れたときに二人が歌う、「愛のデュエット」。どこまでも純粋なサラと、怪しくも美しく、そしてどこか優しさを感じさせるクロロック伯爵の大人の魅力が凝縮された一曲です。
ミュージカル劇場のYouTube公式チャンネルで公開されている、「愛のデュエット」の歌唱映像(舞台上ではなく、収録スタジオにて)がありますので、是非、マークの深みのある甘い声を堪能してください!
歌ってる最中に見せる色気ある表情も、魅力的です。
実は、昨年のことなのですが、ウィーンミュージカルの新作が発表されました。
タイトルは、「Schikaneder(シカネーダー)」。
タイトルロールにもなっている、エマヌエル・シカネーダーという人は、モーツァルト作曲のオペラ「魔笛」の台本を制作した人物なのですが、歴史的に見ると、その存在はやはりモーツァルトの人気の陰に隠れがちで、資料も乏しいです。
ミュージカル「シカネーダー」は、そんな台本作家と、その妻エレオノールの愛を描いた作品です。題材としている人物がマイナーなだけに、作品をヒットさせるためには、何としても実力の確かな人気俳優を据えなくてはなりません。そこで白羽の矢が立ったのが、マーク・セイバートだったのです。
結果は、大成功!
2017年に入ってからも、公演は続いており、「シカネーダー」は見事ヒット作となりました。また一つ、彼の俳優人生に、輝かしい経歴が加わることとなるでしょう。
絶大な人気を誇りながらも、それに奢らず新たな挑戦を続けるストイックなドイツ人俳優。
今後も彼の活躍に注目です。
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